最近の脳科学の研究によると、人間は新しい情報ほど正しいと判定する習慣があるそうだ。確かに、新しい情報は古い情報を検証した上で発信されることが多いため、正しいことが多い。しかし、ことアイデアとなると、必ずしも新しいアイデアが正しいとは限らない。
経営の世界でも、今までにない経営の仕組みを考えつくと、社内の反対が少々あっても、それを導入したくなるのが経営者の性(さが)だ。
斬新な電気機器を開発し、急成長したベンチャー企業A社の創業経営者は、報酬についても斬新な制度を考え出して導入した。それは、給与の自己申告制度─社員が申告した給与はオールイエスで受け入れ、1年後、設定した成果目標が達成できなかった場合、翌年に減給するという制度だった。
それによって、社員は皆、挑戦的な目標を立てて高い給与を受け取り、制度導入当初、社内は非常に活性化したそうである。しかし、商品力が低下するにつれ、成果目標を達成するために無理な営業手法に走り、それが原因で倒産に追い込まれる羽目に陥った。
この事例から学ぶべきは、社長のアイデアをジャッジしてくれる補佐役の必要性である。
しかし、社長という立場は、会社の中では大きな権限を持つ。特に、中小企業のオーナー社長は絶対的な存在であり、社長のアイデアに反対できる役員や社員は、なかなかいない。であれば、社外にでもよいから自分の考えに異を唱えることのできる「ご意見番」を持つべきである。
それは、経営コンサルタントでもよいし、異業種交流会などで知り合った尊敬できる先輩経営者でもよい。
筆者が今までお付き合いしてきた経営者の方々の中でも、優秀な経営者ほどコンサルタントの使い方がうまい。そういう経営者の相談は、自分の意見や考えについて見解を問う内容であることが多く、大抵は「その考えでよいと思いますよ」とアドバイスする。しかし、まれに発生する見解の相違に価値を感じ、コンサルタントを活用されるのだ。
「一国、争臣なければ殆(あやう)し」。元の曾先之(そうせんし)によってまとめられた歴史書『十八史略』にもそうある。しかし、社内に争臣を求めることができなければ、社外にご意見番を求める。これも経営者の器なのである。
会計事務所トータル・バリューサービスより